ジェペット親父(おやじ)の家は一階にある部屋だ。階段の下から日の光(ひかり)がはいってくる。
家具はごく簡単とさえ言えない代物(しろもの)で、椅子(いす)はガタガタ、ベッドもひどく、テーブルはいたみ放題(ほうだい)だ。
壁の奥の方に火がもえる暖炉があるように見えるが、暖炉の火は絵に描(か)いたもの。火のそばに雲のように湯気(ゆげ)が勢いよく立っている鍋(なべ)があるが、それも絵に描(か)いたものだ。湯気は本物のように見える。
家に入ると、ジェペット親父はさっそく道具をとり、動く人形を作るため木を削(けず)り始めた。
- どういう名前をつけたものか?-と独り言(ひとりごと)を言った。
- ピノキオと呼ぼう。この名前はこれから幸運を招(まね)く。おれはピノキオ一家をよく知っている。ピノキオのおとうさん、おかあさん、それに子供たち。みんなよくやっていたが、一番の金持ちでも物乞いをやっていた。 -
自分の動く人形の名前をみつけると、さっそく仕事にとりかかり、髪の毛、額(ひたい)、目と作っていった。目を作り終えたところで、おどろくなかれ、その目は動き、ジェッペット親父をじっと見ているんだ。
ジェッペット親父は、二つの木の目玉(めだま)にじっと見られているのを見て、気を悪くし、いやな気持を含んだような言い方で言った。
- 木の目玉よ、なんでまたわしをじっと見ているんだ? -
答えはない。
さて、目の次は鼻にとりかかったが、この鼻、作り終えたそばから伸び始めたのだ。伸びる、伸びる、伸びるで、伸び続けて、2-3分後にはとんでもなく大きな鼻になった。
こまったジェペット親父は一生懸命削(けず)り取っていったが、削って短くしてもそれだけどんどん伸びていった。
鼻の次は口を作った。
口はまだ作り終えないそばから笑い出し、ジェペット親父をからかい始めた。
- 笑うのをやめないか。- とむっとしてジェペット親父は言ったが、壁に向かって言っていいるようなものだった。
- もう一度言う。笑うのをやめないか。- と今度は脅すように怒鳴(どな)った。
口は笑うのをやめたが、舌をめいっぱい口から出した。
ジェペット親父は邪魔されたくないのでないので、見ぬふりをして再び仕事にとりかかった。
口の次はアゴ、次いで首、両肩、おなか、両腕と両手を作っていった。
両手を作り終えるとすぐに、ジェペット親父は頭のかつらがどこかへ行ってしまったような気がした。
あたりを見回してみると、何と、かつらは人形の手の中にあるではないか。
- ピノキオ、わしのかつらをすぐに返せ!
ピノキオはかつらを返すどころか、それを自分の頭にかぶせたが、半(なか)ば水におぼれた時のように息をつまらせた。
ピノキオはがこのようなきかんぼうで、ろくでもないいたずらっ子なのがわかって悲しくなり、憂鬱(ゆううつ)になった。こんなことは彼の一生でこれまでなかった。そしてピノキオの方に向いて言った。
- いたずらっ子な息子(むすこ)だ!まだ完成もしていなうちから、もう自分の父親をうやまうこをしない!悪いことなんだ、わが息子よ。悪いことなんだよ。
そして涙を拭(ふ)いた。
あと残るは足だけとなった。
足を作り終えたた時、ジェペットは鼻の頭に足蹴(げ)りの一撃を感じた。
ジェペットは自分に言い聞かせた - これも自分のせいだ。始めにもっとよく考えるべきだった。だがもう遅い。
人形を両腕のしたからもちあげて部屋の床の上に立たせて歩かせようとした。
ピノキオの足全体は固まっていて動かないのだ。そこでジェペットはピノキオの両手を持ち一歩一歩足を互(たが)い違いに出す歩き方を教えた。
足の固まりがなくなるとピノキオは自分で歩き始め、そして部屋をかけまわりだした。さらには部屋のドアを抜け、道にとび出し、逃げ出した。
ジェペットは後を追ったが追いつかなかった。なにせこのいたずらっ子のピノキオ、ウサギのように飛び跳ねて行くのだ。そして道の石畳(だたみ)のを木の足でたたくものだから、二十人ほどの農夫たちの木靴(きぐつ)のように音をたてた。
- つかまえろ!つかまえろ!- とジェペットは叫んだが、道行く人たちは、競馬(けいば)馬のように走って行く木の人形を見て立ち止まり、言い尽くせないほどい笑いに笑っていた。
ついに幸なことに軍事警察官が現れた。この騒ぎをきいたこの警官は、仔馬が持ち主の手を振り切って走り出したものと思い、勇ましくも両足を道に広げて立ってこれを止め、断固としてこの騒ぎを終わりに、大きな事故にはさせないという意気を見せた。
ピノキオは道を完全にふさいでいるこの警官を遠くから気づき、おどろくなかれ、かしこくも警官の広げて」た両足の間をすり抜けようとした。だがそうは問屋がおろさず、ひと騒ぎになった。警官は、少しも動かずに、ピノキオの鼻をしっかりとつかんだのだ(この鼻大きく長く警官につかまれるようにできていた)。そして、ピノキオをジェペットの手に返したのだ。そのジェペット、すぐにお仕置きとしてピノキオの耳を引っ張ろうとした。しかし、なんとしたことか、考えてもごらん、耳をさがそうとしたが耳が見つからないのだ。なぜか?なぜならジェペットはピノキオの耳を作りわすれたのだ。
そこで、こんどは首根っこをつかんで引き戻し、脅(おど)しつけるように頭を振って言った。
- すぐに家にもどるんだ。もどったら間違いなく今回のことのけりをつける。
ピノキオは何を言われているのかの察(さっ)しがつき、地べたに身を投げ歩こうとはしなかった。
一方野次馬(やじうま)と浮浪者(ふろうしゃ)が立ち止まり人だかりができ始めた。
ある者はああだと言い、またある者はこうだと言った。
-かわいそうなピノキオ、と幾人かが言った。-なにか家に戻りたくないわけががあるのだろう。あのジェペットのやつがなぐるか知れたもんじゃない。
また別の者たちは悪意を込めてこれに続いた。
-あのジェペット、紳士に見えるが、きっと子供たちには暴君だろう。もしこの人形をジェペットの手に渡したらきっとばらばらにしかねない。
結局のところ、なんだかんだ言い、なんだかんだしていているうちに警官はピノキオを自由にして、ジェペットはあわれにも牢屋に入れられることになってしまった。
ジェペットは、自己弁護はあれこれせずに、仔馬のように泣き、牢屋に向かいはじめながら、ぶつぶついい、すすり泣きながら言った、
-災難の我が息子だ。考えてもみよ。そもそもあの人形のためによかれと思ってしたことでこんなひどいめに会うとは!だが、責任は俺にある。そもそも初めによく考えるべきだったのだ。
さて、その後に起こったことは信じがたい怪奇千万(せんばん)なのだが、それは次回に話そう。
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