このとき戸をたたく音が聞こえた。
-お入りください。
と、立ち上がる手間は欠けずに、指物師は言った。
すると店のなかに元気のいいおやじさんが入ってきた。名前はのジェペットというが、近所の子供たちは、このおじさんをカッカとおこらせようと思ったときはポレンディーナというあだ名で呼んでいた。というのは黄色の髪のかつらをかぶっていたが、その黄色の髪のかつらはトウモロコシの毛(ポレンディーナ)そっくりだったからだ。
このジェッペット親父(おやじ)は短気のおこりっぺ、<ポレンディーナと呼ぶやつにはわざわいあれ>で、こう呼ばれるとすぐに怒り出してけだものようになり、なだめることができなかった。
- こんにちは、アントニーノ親方。 いったい何をしてるんですか?- とジェペットは言った。
- 蟻(あり)に算数を教えているんだ。- とアントニーノは答えた。
- それはなにより。- とジェッペットは言った。
- ところで、何でまたおでましですか?- とアントニーノはたずねた。
- 足がこっちに向いたもので、アントニーノ親方。ちっとお願いしたいことがあるんです。- とジェペットは言った。
- わたしならここにいますよ。お願いを聞きましょう。- と指物師は立ち上がりながら答えて言った。
とジェッペットは言った - けさこの頭にいい考えが涌(わい)て来たんだ。-
- ではそのいい考えを聞かせてもらおうじゃないか。- とアントニーノは言った。
ジェッペットは答えて言った - 自分で動く木のからくり人形を作ろうと考えたんだ。だがそんじょそこいらの動く人形じゃない。踊りがおどれ、剣術もでき、さらにはでんぐり返しもできるすばらしい動く人形だ。そしてその動く人形を持って世界をめぐり、パンもワインも手に入れる。どうかね?
- そりゃすごい、ポレンディーナ。- と叫ぶすかな声が聞こえたが、どこからその声がしたのかわからなかった
ポレンディーナと聞いて、友人のジェペット親父(おやじ)は怒りに燃(も)えるとうがらしのように赤くなり、指物師の方に向いて怒(いか)り狂(くる)ったように言った。
- なんで私をバカにするんだ。- とジェペットは言った。
- 誰があんたをバカにした。 - と指物師はたずねた。
- 私を ポレンディーナと呼んだじゃないか。 - とジェペットは言った。
- あれは私じゃない。 - と指物師は答えた。
ジェッペットは言った。- じゃ、私が言ったとでもいうのかね?あれをいったのは君だといっているんだ。
- いや、私じゃない。
- いや、君だ。
- 私じゃyない。
- 君だ。
と、言い合いはますます熱くなり、言い合いから取っ組み合いになり、つかみ合いになり、引っかき合いになり、噛(か)みあいになり、お互い(たがい)のかつらをもみくちゃにし始めた。
戦闘の末(すえ)には、アントニーノ親方の手にはジェッペット親父(おやじ)のかつらがあり、ジェペットの口にはアントニーノの灰色のかつらがくわえられていた。
- 私のかつらを返してくれ。- とアントニーノ親方は言った。
- それなら私のもかえしてくれ。仲直りしようじゃないか?- とジェッペットが言った。
かくして、この二人の古い友だちは互いにかつらを返しあい、手を握(にぎ)り合い、永遠の友情を誓(ちか)い合うことになった。
- ところでジェッペットさん。 - と仲直りのしるしからたずねた。 - なにが欲しいのかね?-
- 動く木のからくり人形をつくる木が欲しいんだが。- とジェッペットは言った。
アントニーノ親方は、満足して、テーブルの上の丸太の木を取りに行った。それは先ほど彼を大いに恐(おそ)れさせたあの丸太の木だ。だがその木を親父(おやじ)に手渡そうとした時、振るえて アントニーノの手から落ち、やせたジェペットのすねに当たった。
- ああ、これはまたご丁寧なやり方のもののあげかたですな、 アントニーノ親方。私をびっこにさせようというのですか?- とジェッペットは言った。
- いや、誓(ちか)って言うが、私が当てたのじゃない。- とアントニーノは言った。
- それじゃ、わたしが当てたのかな? - とジェッペットは言った。
- その木が悪いんだ。 - とアントニーノは言った。
- 木が当たったのはわかる。だが木を投げたのはあなたでしょう。 - とジェペットは言い返した。
- 私はその木を投げてなんかいませんよ。 - とアントニーノは言った。
- うそつき。
- ジェペット親父(おやじ)さん、私をからかわんでください。さもないと、あんたをポレンディーナと呼びますよ。
- バカ。
- ポレンディーナ。
ー まぬけ。
- ポレンディーナ。
- 猿(さる)
- ポレンディーナ。
ジェッペットは、三度目のポレンディーナを聞いて、怒りに我をわすれて指物師に襲(おそい)かかると、互いに罵詈雑言をあびせかけることになった。
戦闘が終わると、アントニーノ親方は鼻にきずが二つ増え、)ジェペット親父(おやじ)の方は上着のボタンが二つ減っていた。かくのごとくで引き合いということになり、はたまた、手を握(にぎ)り合い、永遠の友情を誓い合うことになった。
ジェペット親父(おやじ)は自分のものとなった人形作りにはもってこいの丸太の木を取りながらアントニーノ親方にお礼を言い、びっこをひきながら家に帰って行った。
第ニ回終わり